「ウチは先代(父親や義父など)の頭が固くて困る!」
「ウチは古参の専務がうるさくて、言うことを聞かないんだ!」
「ウチは株主の身内(母や義母や先代の娘=妻)が何かと口をはさむんだ!」
などなど。中小企業の2代目や3代目などが、創業者や先代から会社経営を引き継いで。
自社の改革や新しい事業展開など、やるべきだと思うこと・やりたいことを進めようとする時。
このような言葉を口にする場面に、よく出会うことがあります。
個人的な経験からすると。
この手の話をするのは、圧倒的に先代の息子さんや娘ムコさんなど男性経営者です。
先代の娘さんやお嫁さんなど、女性経営者の方から耳にすることはまずありません。
一方で、他の家族から猛反対された義父の夢を引き受けて。
奥さま(先代の娘さん)に支えられながら、年商を越える投資を実行して。
大規模な工場を軌道に乗せて、その後もM&A手法を駆使しながら。
会社の売り上げを6年間で4倍に、そして日本一のお豆腐の製造メーカーにした方がいます。
作者の鳥越淳司さんは、いわゆる「おムコさん」であり。
あの「ザクとうふ」で有名になった相模屋食料の3代目社長さんです。
相模屋さんでは、お豆腐と縁遠いと思われていた20歳~30歳半ばの女性へ向けて。
チーズのようにクリーミーなお豆腐を作り、イベントのランウェイでモデルに持たせたり。
京都の有名な料亭とコラボレーション、味を極めたお豆腐を作ったり。
誰もなし得なかった、衛生管理の行き届いたオートメーション工場を実現したり。
地方の一中堅メーカーであった相模屋さんを。
今や「飛ぶ鳥を落とす勢い」に育て上げたのが、作者の鳥越さんです。
もちろん、鳥越さんが歩んできた道は平坦ではありません。
実に多くの紆余曲折があって、支えてくれた数多くの人たちがいます。
いわゆるイノベーターとして、業界では非常識だ!とされていることへの挑戦。
販売先のスーパーの幹部からは、会長(義父)のつくり上げた会社をツブ気か!と言われます。
ただ実際に、このスーパーの幹部さんの言うとおり。
工場を作ることに夢中で販売先まで考えていなかった!という現実もあったのです。
このような状況を変えてくれた、相模屋さんと「心中する」とまで言ってくれた新規の取引先。
年商を超える投資に、単なる数値分析でなくメインバンクとなり融資をした地方銀行など。
鳥越さんご自身も、この本の中で「助けてもらって大きくなった」と述べています。
たしかに、人に感謝する、助けてもらった恩義を持ち続ける、というこのような考え方は。
すべての経営者、特に2代目経営者にとって大切な姿勢だと思います。
一見すると。
このような周囲への感謝や恩義を大切にしたから、改革を進められて。
周囲から協力や理解が得られ、改革がなし得たとも考えられますが・・・。
一方で、少し?だいぶ?ひねくれた見方をすれば。
それは、成功したからこその結果論!かもしれません。
実際に、2代目経営者が現状の打破や成長を目指して。
業界や社内の常識や慣習を変えたり、止めたりと改革を進めれば。
悪気があるとか、ないとかに関わらず自然な現象として。
人は誰でも、自分の環境や現状を変えることに大小の不安を持ちます。
また自分の実績や成果、やり慣れたことに手を突っ込まれることに不満も感じます。
2代目が改革を進めようとすれば、必ず抵抗や反対が起こるのです。
そして、多くの2代目経営者は。
冒頭のような言葉を口にして。
なぜ先代や古参幹部、社員、また周囲の関係者から抵抗されるのか?
ではどのように考えて、どのように周囲に接して進めていけばよいのか?などと悩み続けて。
周囲から理解されないまま、周囲を理解できないまま、改革を頓挫させてしまうのです。
ズバリ!抵抗や反対する人たちに感謝できるか?と質問されたなら。
私ならムリ!と思えて、やはり感謝の気持ちで改革は成功しない気がします。
では、鳥越さんは抵抗を受けながら、なぜ抵抗を乗り越えられたのか?
一言で言えば、個人的には「覚悟があった」からだと思いました。
覚悟とは、やはり私なりの解釈では「自覚+悟り」です。
自分へ向けた決意であり、自分や周囲を冷静に見つめ受け入れる気持ちです。
周囲の人に「覚悟しろよ!」と押し付ければ、それは脅迫になります。
困難や不利なこと、危険なことだと「自覚しながら悟って」受け入れるのが「覚悟」です。
この本を読む限り、鳥越さんは。
まずサラリーマン時代に「覚悟」を身につけたと思います。
クレームの嵐の中、土下座をしたり、罵声を浴びせられたりした経験をしているのです。
また娘ムコとして、相模屋さんに入社してからは。
生産現場に立ち、寝る間も惜しんでお豆腐作りを徹底的に学びます。
2代目として、先代が育て上げた会社をキチンと継ぐ「覚悟」を身につけたのです。
そう、やはり「覚悟」を身につけるには。
このようにドロをかぶり、ドロまみれになる経験が必要不可欠ではないでしょうか。
頭にアセをかき、わきに冷アセをかき、恥をかき、メンツを捨て、それでも進もうとする。
そんな「覚悟」を持った人には、周囲の人たちも必ず手を差し伸べてくれると思うのです。
先代や古参幹部や身内、社員、また景気の動向や業界の衰退や成熟化などを嘆く前に。
何より先に自分の「覚悟」のありようを考えて、もう一度、周囲や経営環境を見直してみると。
新たな改革の道筋が見えてくる、そんなヒントをもたらせてくれる一冊だと思いました。
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