2015年6月23日火曜日

チャンスの女神は坊主頭?

さてさて。越後屋の話、その続きをさせていただます。

とある城下町、そこの大店の御用商人の一つ庄内屋。
そこの若だんなが、はじめて大商(おおあきな)いをまとめました。

そして鼻高々に、連れの越後屋や料理屋の女将に自慢したのですが・・・。
1500両もの大商い、そりゃ他人に話したくもなるってもんです。

そこで、越後屋は。
若だんなを持ち上げようと、話を続けます。

「いいかい女将、庄内屋の若だんなのところのお城との商いは・・・
そうだね、1年で500両くらいだから3年分にはなるだろうねぇ~!
それくらいの大商いを若だんなは、一人でまとめ上げたってわけさ!」

そんな越後屋の言葉を耳にして。
案の定、テンションが上がった庄内屋の若だんな。

グイグイと機嫌よく、女将から注がれ杯を重ねると。
カワヤへ、っと言ってフラ~っと立ち上がったと思ったら。

そのまんま!ガラガラガッシャーン!と転んでしまいました・・・。

そんな様子を心配になった越後屋は。

「今日は、お帰りな庄内屋さん、また後でお祝いだ!」

ポンポンと肩をやさしく叩きながら、庄内屋の若だんなを諭すと。
さすがに飲みすぎた!と思ったのか、庄内屋もうなずきながら。

「ええ、そうさせてもらいます・・・」

というので、越後屋は女将に言ってカゴを呼ぶと。
芸者さんをつけて、庄内屋の若だんなを店の外へ見送らせます。

越後屋と武蔵屋の若だんなと女将の3人になって。
さっきまでの大騒ぎが、ウソのように静かになった部屋で。

「いいな、庄内屋の若だんなは・・・オレなんか・・・
せいぜいガンバっても1本、100両の商いが精一杯・・・」

今度はポツリ、武蔵屋の若だんなが小声でつぶやきました。

「ウン!?どうしたい、武蔵屋さん、そんなことはないさ
いいかい、商いってもんは一発勝負じゃないんだ、わかるかい?・・・・」

いつになく、やさしい声で話しかける越後屋に対して。

「はい、そりゃ~わかります・・・でも・・・わたしの15倍ですよ・・・
大したもんだ、というか・・・正直、うらやましいなぁ~って・・・・・・・」

武蔵屋の若だんなは肩を落として、うつむき加減に。
途切れ気味の声で、自分に言い聞かせるように小声で話します。

「なるほどね、100両の15倍は1500両だなねぇ~
それを庄内屋の若だんなは一発で決めた、確かに15倍だねぇ~」

グチの始めた庄内屋を見て、こりゃ~弱ったとばかり苦笑い。
となりの女将の方に顔を向け、にこやかに見つめながら応える越後屋に。

女将もまた「おやおや、越後屋さん、また大変ね!」という感じで。
やさしい微笑を浮かべて、何やらイイ雰囲気で越後屋を見つめ返します。

この二人、武蔵屋が視線を落としていることをイイことに。
そのまま、お互いの手をそっと握りあってしまいました。

ところが!不意に!顔を上げた武蔵屋の若だんなが。

「だってそうでしょ!越後屋さん!
15倍ですよ!15倍!それもたった1回の商いですよ!」

と叫ぶもんですから、慌ててパッ!と手を離す越後屋と女将。

そんな二人の様子には、気づくはずもない武蔵屋の若だんな。

「・・・その点、私なんか100両と言っても・・・月に20両・・・
しかも1回あたりの商いが5両で月4回、それで5ヶ月で100両・・・」

今度は、一転してまたうつむくいて。
ブツブツと独り言のようにつぶやいたと思ったら。

またまた急に顔を上げて、天井を仰ぎながら。

「1回あたりだったら・・・300倍!300倍ですよ!
とんでもない差だぁ~!あああ!庄内屋なんて!」

ここで、武蔵屋は杯をグィ!と干すと。

「アイツなんか、いつも飲んでばかりで芸者遊びして!
オレはコツコツ、コツコツ・・・まじめに商いしているのに!」

とまぁ~一人で叫び始めまして。
次の瞬間、またガクッ!と肩を落としてうつむいてしまいました。

そんな武蔵屋の様子を見て、越後屋と女将はまた見つめ合って苦笑い。
これまでにない、低い落ち着いた声で、ゆっくりと越後屋が語りかけます。

「いいかい武蔵屋さん、わたしゃ~商いにはいろんな要素がある中で
簡単にいえば、商いは、人、モノ、金、情報、この4つで出来てると思ってるんだ」

ここまでいうと、一息ついて。
女将が新しく注いでくれた杯をクッと空ける越後屋は。

さらに低い声の落ち着いた口調で。
目の前の武蔵屋の若だんなでなく。

まるで、自分に言い聞かせるように。

「その中でもね、私自身は情報が一番に大事で
その情報の中でも、とりわけ商いの流れ、タイミングを大切にしているんだ」

と続けます。

「よく言う、チャンスの女神は前髪しかない
だから、タイミングよく、速めに商いのことは進めろ、って話ですか?」

うつむいて、その表情はわかりませんが。
そんなことは知っているよ、と言わんばかりの口調の武蔵屋に対して。

越後屋は、意に介さずに。

「いやいや、そうじゃないんだ
チャンスの女神がいるとしたら、前髪も後ろ髪もないんだよ」

と言いながら、女将に目を向けると。

「そうだね、尼さんみたいに坊主頭のような気がするな
それも色っぽい尼さん、女神というくらいだからイイ女なんだろうね~」

また越後屋と女将は見つめ合い、そして手を握り合いながら。
オレのイイ女はココにいる、とばかり女将を見つめながら応えます。

「そんなもんですかねぇ~・・・私はまだ若いから・・・
尼さんの色気って、わかんないですよ!そんで尼さんをそんな目で見たことないし!」

何か、からかわれていると感じたのでしょうか?
武蔵屋の若だんなは、はき捨てるように言うと。

まさにヤケ酒、目の前の徳利を手にすると。
一気にゴクゴク!と、ラッパ飲みしてしまいました。

おやおや、弱ったもんだ・・・とまたまた越後屋は苦笑いしながら。
黙って女将にカラの徳利を振って、ちょっと席を外すように促すと。

女将は微笑んでうなずくと「お酒のお代わり、お持ちしますね」と言いながら。
スッと立ち上がり、カラの徳利を持って静かに座敷を出て行きます・・・。

女将がふすまを閉める音を合図に、グッ!と武蔵屋に身を乗り出して。
彼の肩に手をおくと、おもむろに越後屋は。

「いいかい武蔵屋さん、私が言いたいのはね
そもそも商いに、チャンスの女神はいないということなんだよ」

と語りはじめました。

「仮にいたとししても、前髪も後ろ髪もない、本当に坊主頭なんだ
だからつかみようがない、つかもうと思ってもムリなんだよ」

と諭すように、武蔵屋に話しかけますが。

さてさて。チャンスの女神が坊主頭って???

この話は、次回に続きます。
お後がよろしいようで・・・。

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