2015年7月23日木曜日

商いも恋も 一目ぼれこそ・・・

「まぁまぁ落ち着いて、話を最後まで聞いておくれよ、武蔵屋さん
まず人は、感情で行動を起こして、あとから理屈や理性で理由付けする・・・」

さすがに、マズいと思った越後屋は。
きちんと武蔵屋の若だんなの方を向いて語り始めると。

「というか、この感情というのは、子どもの頃からの親や周囲の人の教育や影響など
一見すると自分の感情や価値観だと思うかもしれないが、実は他の人からの伝承・・・」

は?一体、何が言いたいんだ?この人は?と顔をしかめる武蔵屋に。
まるで気づいていないかのように、淡々と話を続けていくのでした。

「たとえば富くじがあるよね
買う人からみれば夢があるとか、100両当たった人がいるとか

反対に買わない人から言わせれば
確率が悪いとか、当たるはずないとか、このように判断が分かれるね

どちらもある意味やある面では正しい、しかし別の面では間違っている・・・
どっちもどっち、甲乙つけがたいこと、世の中に多いというか、商売も人生も

白か黒か、右か左か、ハッキリしないものがほとんどだと言える・・・」

こう立て続けに、たたみかけるように越後屋は話します。

「そのとおりですけど、富くじの話とチャンスがつかめないという話は、関係あるんですか?
私は頭がグチャグチャで、何が何だか、よくわからなくなってますよ・・・」

今度は、やや弱りきった表情を浮かべる武蔵屋の若だんな。
ここから越後屋の話は佳境に入り、続いてまいります。

「ところがもし、誰も当たったことがない富くじならどうなる?
誰だって、決して買わないね、ところが確率は別として

確実に誰かには100両とか1両とか当たっているわけで
しかも他の人に当たって、自分には当たらないこともない

他人も自分も当たる確率、可能性は同じ、別の言い方や考え方をすれば
買わなきゃいつまでも、絶対に当たらないわけで、これもまた理屈に合った判断になるね」

こう一気に語り上げる越後屋に対して、押し黙ったままの武蔵屋は。

・・・・このおっさん、何を言いたいんだか・・・なんで富くじの話なんだ??・・・・

とまぁ、心の中でブツブツつぶやいておりましたが。

「言い換えれば、富くじを買う人は、最初から100両が当たった人の話とか
当たりやすい買い方や売り場の話を集めて、それを元に行動しているわけで

なぜ、そのような情報や話を最初から集めてしまうのか?といえば
子どもの頃からの親や周囲の人の教育や影響で、富くじを信じているからなんだ

反対に富くじを買わない人も同じこと、最初から富くじなんかお金のムダ遣い!
当てにならん!当てにしちゃだめだ!と教え込まれている、刷り込まれているのさ

このように人は、一見すると客観的な判断、たとえば多くの人が富ぐしを買っているとか
実際に100両が当たった人が、かわら版に出ていた、だからオレは富くじを買うんだと

こういう客観的な状況で考えて、自分は買うと決めたと
自分では、そう思っているかもしれないが・・・本当のところは

最初から富くじを買いたい!買ってもいいんだ!と感情で判断している
そんな自分の感情、直感的であいまいな判断を認める、自分を正当化するために

最初から買うと決めていたにも関わらず
富くじに当たった話や当たる方法の情報を集めて

あたかも客観的、冷静に分析して判断した
だからこの行動は正しいと後付で考えるんだよ」

ここまで越後屋が言い終わると。
武蔵屋の若だんな、ハッ!とした表情を急に浮かべて。

「そうか!富くじでなくても、たとえば商いの投資や売り買い
あとお客さんの行動も同じで、感情というか、子どもの頃からの価値観

潜在意識ってもんで、判断していると・・・」

武蔵屋は、自分に言い聞かせるように。

「だからこれはチャンスだ、今が良いタイミングだ
なぜなら、こういう情報があって、こういう数字かある

ソロバンや損得の計算も、ピッタリ
理論的にも、良いとされていると考えたとしても

そもそも最初から、これはチャンスだ!と決めてやっていることで

チャンスの女神がいる、というのも後付けの理屈や考え方
本当にチャンスがどうか、そういう意味では誰の保証も理屈もないわけで

チャンスの女神がどうか、わからない、違うかもしれないと考えれば!」

と話すと、越後屋はニッコリ笑って。

「その通り!武蔵屋さん、だから商いでチャンスと思える時
中でも、商品でもしくみでも、新しいことに商いで挑戦する時は

こうなったら止めよう、ここまでに結果が出なければ退くと
最初から決めて、臨んでいる商人ほど強いものはないんだよ

別の言い方をすれば、商人としてセンスの高い人は
商いを始めるとともに、撤退する道や相場、ラインを決めておける人さ

ましてや情報があふれかえって、良いものも悪いものも
とんでももない情報やインチキでも、一瞬に世の中に拡大する今の時代は

いろいろな出来事や状況が複雑に絡み合って
仮に筋が立っていた、理論や方法もすぐに陳腐化する

南蛮の国にあるという砂の海みたいな、砂漠という場所で
万が一に、道を外れると、水場に到着できず死ぬという考え方でなく

森や林の中、道に迷っっても、たまたま水場がある
ブラブラしていたら水が飲めた、くらいに考えて

チャンスやタイミングをつかんで成功したことは、あくまでも結果論
だからこそ、水が手に入ったことに安住してはいけないんだよ・・・」

今や目をキラキラと輝かせている武蔵屋に、こう告げるのでした。

「わかりました!越後屋さん!だから庄内屋の若だんなの大商いも同じで
大商いをまとめた!チャンスの女神をものにした!と思っても、油断してはいけないと

チャンスの女神が、魔女に化けて襲いかかるようになる、こう言いたいんですね・・・
・・・・・でも庄内屋さんの件、なぜ女神が魔女に化けるって考えたんですか?・・・・」

このような質問する武蔵屋に、越後屋は人目をはばかるように小声で。

「そうだね、ハッキリは武蔵屋さんにも言えないけど、庄内屋さんはかなりムリした節がある
まぁ、お縄になるほどヤバいことでないにしても、出入り商人の仲間内では問題になるな・・・

正直なところ、さっきのお城の出入り商人の寄り合いでも
庄内屋さんに聞こえないカゲでね・・・・

この敵(かたき)はとってやる!という人がいてね・・・
いくら商売の競争相手とは言え、敵と恨まれてはね・・・

たぶん長い目で見たら、この目先の成功より
ツケの方が大きくなるだろうね、それに一般的にも・・・・・・

・・・一度で3年分の商い、ってムリがあるとは思わないかい?
よく耳にしないかい?扇と同じ、広げすぎると倒れるもんさ・・・・」

と・・・マユをひそめながら話しかけました。

「ああ!その話は、少しウチの店にも聞こえて来ましたよ
でもウチのオヤジは、その手の話はキライで、人様の悪口は聞きたくないというか

実は私もキライで・・・あ!そうか!これも感情の判断、子どもの頃の価値観か!」

またまた理解を深めた武蔵屋の若だんな、そんな彼を見ながらうなづく越後屋は。

「いいかい武蔵屋さん、店の主人のそんな個人的な感情、価値観、感覚というものは
主人だけでなく、多くの店で番頭や手代、丁稚まで知っている、ウチの店はこうだ!って

たとえば、人様の悪口は言ってはいけないよ!って
武蔵屋さんの店では、良く店の者同士で話してないかい?

もしかしたら番頭さんが手代や丁稚さんにを叱る時とか
武蔵屋のオヤジさんや若だんな自身が、お店や家の人に良く口にするとか

これが商いでは大事な店の風土、家で言うなら家風になっていて、どんなことをする時も
風土や家風から外れる判断や行動は、チャンスの女神に化けた魔女に騙される元になる

別の角度から言えば、女神に化けた魔女を見抜く方法がコレ!

店の風土や文化、家の家風、自分の個人的な感情や価値観など・・・
この手のものを精神論と片付けたり、逆らっちゃたりしてはいけないんだよ

逆らうと目がくらんで、短期的には良い目にあってもね・・・
・・・・・・・・まぁ、その先は真っ暗闇、ということがよくあるんだ・・・」

ここまで言い尽くすと、ふと遠くを見つめながら。
遠い昔、いや自分の心の何かを見つけ出すように。

「・・・商いだけじゃないね、男女の恋仲もねそうさね・・・
・・・良い女、本当の女神に出会うには感情を曲げてはいけないよ

いくら美人だから、姿かたちが良いからって
そんな見方をするのでなく、惚れたかどうか?感情に身をゆだねる・・・・・」

そんな風に言うと、越後屋はそっと女将の手を握って。
やさしい眼差しで微笑みかけながら。

「・・・出会った意味や損得なんてなくていい・・・
・・・一緒にいられる、そんな時間が幸せならば、ね・・・・・・

商いも恋も、無意識のうちに出来た価値観での一目ぼれ
これが本当の女神に出会うコツさ、そうだよなぁ女将・・・・・・・・・」

と語りかけると。

女将もまた微笑みながら、黙ってうなずきます。

・・・え!?は!?・・・・・こりゃ~、オジャマかな・・・・・・

男女の中には疎(うと)い、武蔵屋の若だんなも。
さすがに感じるものがあったのか、二人のそんな様子に気押しされたのか。

「・・・おっ!もうこんな時刻だ!

越後屋さん、今日はいろいろな話をありがとうございました
私はこれでカゴを呼んで帰ります、越後屋さんはどうなされ・・・・・・・

おっととと、まだいらっしゃいますよね・・・・ではでは、失礼しま~す・・・・・・・」

と座敷をそっとあとにしました。

さてさて。このあと、越後屋と女将がどうなったか・・・・。

それは、みなさまのご想像にオマカセしまして。

越後屋の商い帳、その一の巻き。
チャンスの女神に前髪はない、というお話は。

ここいらあたりで、お開きとさせていただきます。

ではでは。次のお話でお会いできます日まで。
お後がよろしいようで、しばらくのお別れでございます・・・・。

2015年7月17日金曜日

商いの判断は、すべて一目ぼれ!?

え~本日も、備忘録。
越後屋の商い帳シリーズです。

うん?備忘録?越後屋の商い帳?
何だ?この話は?と思われる方は。

このシリーズの第1回目「むかし、むかし、あるご城下での話」編と。
前回の「チャンスは、つかめない・計れない・わからない!?」編をお読み下さい。

備忘録の解説や全体のあらすじが書いてあります。

ではでは、そういうことで。
お話の続きのはじまり~、はじまり~です!・・・・・・・・チョン!チョチョチョン!

○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○

越後屋は、ゆっくりと。

「まず知りたいのは、チャンスや良いタイミングというものは
なぜ自分でつかめない・計れない・わからないのか?その理由や原因だね?」

と言い、武蔵屋の顔をじっと覗き込みながら言葉を続けます。

「もう一つは、チャンスだ!良いタイミングだ!女神にオレは出会った!と思っても
実は落とし穴、ピンチ、悪いタイミング、というように魔女みたいなヤツがいる理由や原因」

そう!それです!と言わんばかりに、武蔵屋は大きくうなずきます。

「その上で、女神に化けた魔女を見抜く法則を知りたい、ということだね?」

ここまで武蔵屋の若だんなの質問を確認すると。

「では、最初に・・・
なぜチャンスやタイミングは、つかめない・計れない・わからないのか?から・・・」

相変わらず、片方の手に杯(さかずき)を。
もう片方の手は、そっと女将の手にやさしく添えながら。

「武蔵屋さん、商いってもんは、チャンスの後にピンチありとか、
ピンチの後にチャンスありとか、こう言われているのは耳にしたことがあるでしょ?」

こう言うと、越後屋は武蔵屋をひとにらみ。
にらむ、というよりじっと彼の目を見つめた、という感じでしょうか。

・・・・・この人は、酔っているのか?それともシラフ?わかんないな・・・・・・

武蔵屋は、するどく自分を見つめる相手の心を探るように。

「はい・・・たしかに、たまに・・・いや、よく耳にする話ですね・・・」

言葉を選びながら答えました。

「言いかえればチャンスとピンチは表裏一体、コインのオモテとウラ
クルクルと変わりやすい、パッと!ひっくり返るという話であるんだけど」

越後屋は、こう話すと、たたみ掛けるように語りかけます。

「昔もそうだけど、単純に情報量が増えて、何百倍にもなった今なら、
まさに混合玉石、チャンスを見分けがつきづらくなってきていると言えるな・・・

チャンスや良いタイミングをつかまえて一気に簡単に儲けたという話とか
反対に、ちょっとしたタイミングや出来事で大きなトラブルに巻き込まれた話とか

これをおもしろおかしく、注目を集めたい、目立ちたいとか、ウケを狙ったり
ロクに自分の目や足で調べもしないで、これこそ正論だ!真相だ!と言い放ったり

こんなヤカラが、ネット屋とか、かわら版屋などで幅を利かせているわけだね・・・・
これがつかめない、計れない、先が見えない、という表面的な原因なんだけど・・・」

ここまで一気に話すと、杯をグッと飲み干して。
フゥ~と一息、空いた杯をすっと女将に差し出して、酒を注いでもらいながら。

「そもそも、人間なら誰でも持つ2つの心、考え方があって
一つは世の中のどこかにチャンス、おいしい話があるにちがいない、こういった願望や欲望と

もう一つはチャンスか、良いタイミングか、正しいか、間違いかなど、判断するその基準が
実は必ずと言って良いほど、人は偏っている、これが根本的な原因と言えるだろうね・・・」

と続けるのですが、何やら眉間にシワを寄せながら。

「でも情報量が増えて、細部までわかることで、チャンスやタイミングが分析しやすくなって
かえって見分けや区分けがしやすくなる、客観的に見られる、私はそう感じるんですけど・・・」

武蔵屋の若だんなは、こう言うと食い入るように越後屋を見つめました。

「そうだね、たしかに選択肢や情報量が多ければ、分析はしやすいかもしれない
細かいところまで見えるから、細かい違いもつかめるかもしれないね・・・」

今度は一転、目を細めてやさしい眼差しでとなりの女将を見つめながら応える越後屋。
自分の話を真剣に聞いてない、目の前にまるで自分はいないかのようなその態度に。

「でしょ!しっかり分析して、よく吟味すれば
チャンスや良いタイミングを見わけられるんじゃないですか?」

少しムッ!とした武蔵屋は、やや大きな声でまくしたてます。

「ところが武蔵屋さん、その選択肢や情報に
最初から色や膜(まく)のようなものがついているとしたら?」

そんな武蔵屋の様子もかまわずに、越後屋が女将に微笑みながら。

「一体、どうなると思う?そう女将、お前さんはどう思うかい?
最初から色つきメガネで、世間様やまわりを見ていたとしたらさ?」

と語りかけると。

「いやですよ、越後屋のだんなは・・・武蔵屋の若だんなが真剣に話しているのに
そんな目で私を見つめて・・・色メガネは色メガネでも、ちがう色がお顔に出ていますよ・・・」

と微笑み返して女将が応えるもんですから、見てられんわ!とイライラしながら武蔵屋は。

「そうですよ!越後屋さん!女将とイチャつくのは後にして、今は私と真剣に話してくださいな!
私ゃ~どうしてもチャンスやタイミングをつかんで、庄内屋の若だんなを見返したいですよ!!」

ついホンネがポロリ、と出てしまいました。

おやおや、ヤッパリね!と思いながら、おだやかな表情を浮かべる越後屋が。
そのまま武蔵屋の若だんなの方に、やさしい眼差しを振り向けると。

「いやいや、悪かった、悪かった、武蔵屋さん、真剣に聞いてないわけじゃないんだよ
いやね、最初から色メガネで見ている、というのは男女の仲も同じで・・・そう、一目ぼれね・・・」

と話すもんですから、武蔵屋はますます興奮して。

「だから!商いの話をしているんで、男女の恋仲の話をしているんじゃんないんですよ!!
第一、私ゃ女に一目ぼれするような軽い男じゃありません!一目ぼれしたことないですよ!!」

とまぁ、お酒で赤くなった顔をさらに赤くして。
かみつくように話すと、越後屋はさらに優しい顔になって。

「いいかい、若だんな、女に一目ぼれしたことがない、ということが違っているんだよ
人は男も女も、恋仲になるのはすべて一目ぼれ、そして商いの判断も、すべて一目ぼれさ・・・」

またまた女将を見つめながら応えたもんですから、さぁ大変。

「商いも一目ぼれ!?そんなわけないでしょ!そんないい加減なことで商いはできないでしょ!
一目ぼれで商いしたら、失敗が増えて、いつか店つぶして、身代なくすのがオチですよ!!」

武蔵屋はヒートアップ、興奮もピークになります。

さてさて。百歩譲って、男女の恋仲が一目ぼれだとしても。
商いまで一目ぼれ、という越後屋の言わんとしていることとは。

この話は、またまた次回に。
いよいよ最終回、チャンスの女神が魔女に変身するナゾも解けます。

お後がよろしいようで・・・。

2015年7月7日火曜日

チャンスは、つかめない・計れない・わからない!?

え~ここまでお話が、だいぶ長くなりまして。
途中からお読みの方もいるんじゃないか、と。

そう思いますんで、少しここまでのあらすじをご紹介します。

とある城下町で、お城の出入り商人3人が酒席を開いておりました。

ご城下でも、中堅の規模のお店を開いております越後屋さん。
あとは大店の庄内屋の若だんな、そして庄内屋と同い年の武蔵屋の若だんなです。

庄内屋の若だんな、どちらかっていうと普段から遊び人というか。
あまり商売に身が入っておりませんが、なんと1500両もの大商いをまとめます。

いつもは厳しい庄内屋の主、父親からもほめられて。
うれしさのあまりハシャギすぎて、飲みすぎて、先に帰ってしまいます。

その自慢話や様子を見ていた、武蔵屋の若だんなは。
いつもマジメにコツコツやっているのに、なんで庄内屋が!と思いつつ。

歯がゆさに、庄内屋さんは運がいい。
それに比べ、自分は・・・と落ち込んでしまいます。

そんな武蔵屋の様子を見て、少し年配の越後屋は。
商売をする上で、大事な柱、人、モノ、お金、情報のうちで。

情報を一番に大事にしていて、その中でも商いの流れ、タイミングを。
とりわけ大切にしている、と諭すように武蔵屋の若だんなに語るのでした。

すると、タイミング、チャンスの流れ、それをつかむこと。
よく耳にする、チャンスの女神の前髪をつかむことが大事なのか?と。

こう尋ねる武蔵屋に、越後屋はチャンスの女神は神話の世界のつくり話。
前髪どころが坊主頭、だから誰にもつかめない、後付けのお話と語って。

チャンスの女神より、大事なのはジャッジの女神。
しかも女神に化けた、魔女を見抜くことが大切だと話すのです。

ますます、?マークがいっぱいの武蔵屋の若だんな。
そんな様子に理解を示しつつ、越後屋の話は続くのでした・・・・。

「いいかい、武蔵屋さん、わたしは、商いでタイミングを大切にしていると話したね?」

怪訝そうな武蔵屋の顔を覗き込みながら、越後屋は話を続けます。

「そのタイミングなんだけど、いくらタイミングをとろうとしても、自分じゃとれない
良いタイミングを計ろうとしても、自分じゃ計れない、わかんないとわたしは思っているんだ・・・」

そういうと、いつの間にか。

越後屋と武蔵屋の話をジャマしないように、そっと座敷に入ってきた女将が。
静かに微笑みながら、新しくもってきたお酒を越後屋に注ぎます。

その微笑に、微笑をかえしながらお酒に少し口をつけると。

「そういう意味では、チャンスとは、良いタイミングだった、と言えるけど
自分じゃチャンスは、とれない、計れない、わかんないわけで・・・・」

越後屋は、話を続けながら。

「だからチャンスの女神はいない、いるとしたら前髪もなく、坊主頭で
つかみようがない、いるとしたらチャンスの女神でなく、ジャッジの女神だと
あれがチャンス、良いタイミングだったか?とジャッジ、判断する女神しかいないわけで」

越後屋は、ここまで話すと。
またまた武蔵屋から見えないように、そっと女将の白い細い手を握りながら。

「そのジャッジの女神に、実は魔女がいる、と言ったわけさ・・・
ま、女は魔物、という話と同じかもしれないけどなぁ~・・・」

と今度は、武蔵屋にもハッキリわかるくらいに。
ニコリと女将を見つめると、女将もおやおや!というように越後屋を見つめ返します。

だいぶ男女の仲や女性に疎い(うとい)?武蔵屋の若だんなですが。
さすがに越後屋と女将の関係に、何ならぬ雰囲気を感じながら。

「ほっ?あっ!?え!・・・女は魔物、女神だから魔女、ってわけですか・・・」

かえって、そんな二人に自分が恥ずかしくなったかのように。
言葉につまりながら、武蔵屋は素っとん狂な声を上げて返事をします。

「そう、女は魔物、だからおもしろいんだが・・・おっと!話が横道にそれたね・・・」

武蔵屋の動揺した様子にも、気にせず手をとったまま女将を見つめていた越後屋ですが。
武蔵屋の方に目を向けて、彼の表情を確かめるように、静かに語り始めました。

「要するに、タイミング良かった、チャンスをつかめた、または良い結果だと思ったら
実はタイミングが悪い、つまりチャンスのようで落とし穴、悪い結果があるということでね」

そういうと、静かに杯(さかずき)を空けると。
そっと差し出す女将からの徳利を受けながら。

「だから良かった、チャンスをつかめた、女神に出会った!と思ったら
悪かった、落とし穴だった、本当は魔女だった!となるわけで」

こう続けた越後屋は、さらに声を低めて。

「その女神と魔女を見分ける法則、魔女を見抜く法則がある・・・・
と話したわけだけど、まだ興味があるかい?武蔵屋さんは?」

と語りかけるのでした。

すると。

「ええ!もちろんです!とういか、チャンスは、なぜ自分ではつかめないのか?
計れないのか?わからないのか?それに、なぜ女神のように見える魔女がいるのか?
そういうことも、よくわかっていないんで、そのことから教えててもらえませんか?」

武蔵屋の若だんなは、グッと身を乗り出すようにこたえるのでした。

さてさて。

なぜチャンス、つまり良いタイミングは。
自分では、つかめない・計れない・わからないのか?

また結果が出てから、良いタイミングやチャンス、良い結果だったと判断する時に。
なぜ、女神に化けた魔女がいるのか?女神の中に魔女が隠れているのか?

そして、その魔女を見抜く法則とは?いったい?・・・・・・

この話の続きは、次回へ続きます。
お後がよろしいようで・・・。

2015年7月3日金曜日

女神に化けた魔女!

さてさて。お話の続きでございます。

越後屋がつぶやくナゾの一言。

「チャンスの女神が坊主頭」

に対して、え?坊主頭?なんでだ???
そんな思いをぶつけるように。

「でも運のイイヤツ、悪いヤツ、早く成功するヤツ、なかなか成功できないヤツ
っているじゃないですか!まるで庄内屋の若だんなと私のように!!」

と叫ぶ武蔵屋の若だんな。
どうやら、彼には越後屋の話がよくわからないようで。

そのまま、ショボン!と視線をタタミに落としてしまいました。

ま、理解できないのも仕方ないか・・・と内心は思いながら。

「いいかい、武蔵屋さん、わたしゃ~こう思っているんだ
運は単なる結果や成果が出てからの理由付け、成功するもしないも結果論・・・って」

なぜか、昔を思い出すかのように遠くを見つめて。
かみしめるように、越後屋は話を続けます。

「成功だってそう、誰でも100%成功すると最初からわかっていることはない
結果として、成功した!失敗した!となって、初めてわかるもんなんだ・・・」

今度は、目の前の杯(さかずき)の酒に。
小さく写る、自分の顔を見つめながら語る越後屋。

「だからチャンスの女神も、後からの理由付け 結果論なんだよ
もし、いたとしても、誰にも気づかれずにそっと通り過ぎて、すっ~と静かに消える」

そういうと、酒をグッ!と飲み干し、自分の杯に酒を注ぎながら。

「そう、後からアレが女神だったかも?と思ってオレは女神を見たぞ!
女神の前髪をつかんだぞ!って、ある意味のつくり話、神話にしただけと思うよ」

越後屋は、そう言うと。
武蔵屋に、最後の徳利を差し向けながら。

「まぁ武蔵屋さん、もう少しオレの酒に付き合いながら聞いて下さいな
他の誰にも言っていないんだけどね、後からつくられたチャンスの女神にもね・・・」

一段と小さな、低い声でゆっくりと語りかけます。

「・・・・実は、本当の女神と相手を呪い殺すような魔女がいるとしたら、武蔵屋さん
アンタ、いったいどう思う?恐くはないかい?私は、何より一番に恐ろしいと思うけどね・・・」

・・・すると。

「え?女神じゃなく、魔女?ですか??」

とようやく顔を上げ、徳利が差し出されているのに気づいた武蔵屋の杯に。
ホンの少しだけ、残った酒を注ぎながら大きくうなづいた越後屋は。

「そう、本当に女神と魔女がいるんだ・・・正直に話すと、私自身も何回か出会ってきた
それでね、苦労しながらね、女神か?魔女か?見抜く法則を見つけたんだけど・・・
武蔵屋さん、もしそんな法則があったら、興味があるかい?知りたいと思うかい?どう?」

と続けました。

「そりゃ~知りたいですよ!ぜひ!女神と魔女がわかればイイですよね!
・・・・あれ?待てよ・・・越後屋さんは、さっき女神なんて後付だ!いない!って
こう話していましたよね?じゃあ女神と魔女を見分けても、意味なんてないんじゃ??」

食いつくように目を見開いたと思ったら、またマユをしかめる武蔵屋に。

「そのとおり、みんなが話すようなチャンスの女神はいない、坊主頭で先にはつかめない
さっきも言ったとおり神話の世界、後から結果論として現れる女神さ・・・でもね・・・」

と武蔵屋の若だんなをじっと見つめる越後屋は。

「チャンスの女神に化けて、美しいけど、本当は恐ろしい魔女はいるんだ」

と諭すように語りかけました。

「えええ???チャンスの女神に化けた魔女??って???
よくわかんないですよ!なんなんです?その魔女は???」

間髪をいれず、言い返してくる武蔵屋の肩をポンポンと叩きながら。

「まぁ落ち着いてよ、武蔵屋さん、そう急かさないで下さいな」

と言いながら、さっ、お飲みよ!と酒を進める越後屋は。

「あれがチャンスだったのか?それともあれがチャンスじゃなかったのか?と
結果や成果が出てから、結果論として理論つげする、判断する、ジャッジする女神
これがわたしの考える、チャンスの女神、ってヤツの正体なんだけどね・・・」

自分も、杯をグッと空けながら。

「始末に悪いのは、その中に女神に化けた恐ろしい魔女がいることなんだ・・・・」

越後屋が、こう続けると。

「・・・・でも、後からジャッジって・・・女神とか魔女とかの意味がない気がしますが・・・」

合点がいかない武蔵屋は、怪訝そうな顔をしています。

「いや、そうでもない、というよりも、武蔵屋さんをはじめ、みんなの思うチャンスの女神
前髪があって、成功のために先につかむ女神よりも、ジャッジの女神の方がね・・・・・・・
・・・そうだねぇ~・・・・何倍、何十倍も大切、それくらい重要な女神だと思うけどね・・・・」

またまた、昔を思い出すように遠くに視線を投げかけながら。

「・・・・・そう考えると、庄内屋さんの1500両の大商いも、女神でなくて・・・・・・
もしかしたら魔女、しかも飛び切り性悪な魔女が関係していそうなんだよね・・・」

とつぶやくのでした・・・・・・・・。

さてさて。一体、チャンスの女神より大事なジャッジの女神とは?
その女神に化けた魔女とは?庄内屋の大商いに隠れている魔女の正体は?

この話は、次回に続きます。
お後がよろしいようで・・・。