2015年10月14日水曜日

銀座のバーでヤッチマッタ!【回答編】


その日、2軒目のバーも。
運がイイことに、カウンターに座れた。

もっとも。この時間、この曜日、週末の夜。

食前か、食後に立ち寄るお客が多いであろうバーは。
しかも銀座ともなれば、混んでいているだろうと予測していて。

実は。最初から「本店」を目指さなかった。

著名なバーテンダーさんの弟子が、店長&バーテンダーを務めるバー。
「本店」やその系列店で飲める、オリジナル・カクテルが飲みたくて。

いや、連れにすすめたくて。
座れる可能性の高い、このバーに来たのだ。

「・・・・ところで、さっきのバーのカップルの女性は。
まさにヤッチマッタ!よね・・・君ならわかると思うけど・・・」

オレは、一杯目にオーダーしたオリジナルのマティーニに口をつけたあと。
となりの連れに、前のバーで起きた一つ目の事件を切り出した。

「そうね・・・バーで、しかもカウンターで女性が避けてほしい3つのこと。

1つはバッグ、お鮨屋さんでも他の飲食店でもそうだけど。
バッグをカウンターに置く、というのはやめた方がイイわね。」

連れは、オリジナルの見た目も美しいカクテルを楽しみながら。
そのクォリティに満足した様子で、微笑を浮かべながら応えた。

「そのとおり、バッグはドコにおくか?
その点、このバーも前のバーも、事前にお店側が対応してくれたね。

そして2つ目は、同じくお鮨屋さんのカウンターでもNG。
女性の香水。香水の香りが魚、そして酒の香りを消しちまう・・・。」

「まぁ、そこまで香りをさせている人は、バーや飲食店だけでなくNGだわ。
この間、ゴルフ場のロッカールームでいたわよ、ちよっと・・・ね!という人が。」

「あと1つ、女性がバーのカウンターでやってしまいそうなこと。

それを前のバーの彼女は、ヤッチマッタ!わけだけど。
君には聞こえた?彼女のオーダーの言葉、耳にしたかな?」

「ええ、結構ハシャイでたというか、あのバーに来たくて。
初めて連れてきてもらったみたいで、若い子だったみたいだけど。

おススメで!って言っちゃってたわよね・・・。」

「そうそう、おススメで!って目の前にいたサブのバーテンダーさんに言った瞬間。
ほら、オレたちの前にいた大ベテランのバーテンダーさん、その人さ、ひと言。

ウチは定食屋じゃないんだけど!って、小声でボソッ!っとつぶやいたんだ!
お見事!というか、そうだよなぁ~とオレも思ったけどさ、ちょっとおもしろかったよ。」

「へぇ~そうなの、あのバーテンダーさんがね、それは私には聞こえなかったけど。
でも彼女のおススメで!を耳にして、私もアララ!ヤッチャッタ!って思ったわよ。

ある意味で、バーのオーダーでの禁句の一つだもの、でもね、今は少し違うわ。
最近の若いバーテンダーさんは、きちんと受けとめてくれるもの、大丈夫よ。」

「そうだね、まぁ定食屋じゃないよ!というのは、ベテランさんらしいセリフ。
というかホンネかな、あの大ベテランさんのクラスならではことだと思うよ。

たしかに、あの女性がおススメで!とオーダーしたら。
サブのバーテンダーさん、ちゃんとサポートして。

彼女の味の好みやアルコールの強さなど、聞いていたからね。
それで何かしら、彼女に合うようなカクテルを出していたっけ。

そういう点では、最近は女性のおひとり様でも、安心して。
イイ感じで飲める、そんなバーもたくさんあるからね。」

「そうよ、だってあなたの一番のお気に入りのバー。
あそこのマスターだって、ベテランのバーテンダーさんだけどやさしいわ。

女性ひとりでもいい感じて飲めるし、安心してお酒を楽しめるわよね。」

「たしかに。バーに一人できた女性を安心させること、というか。
ヘンな酔っ払い男から、声をかけたり、不快な思いをさせたりしないように。

さりげなくガードするのも、バーテンダーの役目かな・・・。

そうそう!女性に声をかける、っていえば。

オレの右隣にいた30代くらいの若い男なんだけどさ、コイツがさ・・・。
そのまた隣にいた白人の女性の二人連れに話しかけてたんだけど。」

「え?そうなの?そんな人、いたんだ。
あなたの影で、見えなかったけど・・・。

ふーん、でもどうして白人とわかった?
あなたも、その二人に興味があったわけ?」

「え?いや、そんなことはないよ!
チラッ!と見えた横顔が、白人だったというだけで・・・。

うん、まぁ、そういう男がいたんたけど。
この人は、どうやらあのバーの常連さんらしいんだよ。

自分はこのバーに通って、育ったようなもんだ、って。
大ベテランさんに話していたのを聞くともなく耳にしたからね。

それがさ、俺たちにモスコミュールをつくってくれた人。
別の大ベテランさんの女性がいたろ?」

「フフフ、横顔ねぇ~。
まぁいいわ、白人だったのね?

その白人の女性に、声をかけていた男がいて・・・。

あのオバァちゃんのバーテンダーさんね。
彼女の出してくれたモスコミュール、おいしかったわ!

あのバーで、一度は飲みたかったのよ!」

「そう!その人にね、そのモスコミュールの話をしていたんだ。
この間、別のバーに行ってモスコミュールをオーダーしたらしいんだけど。

そこで、これはオレがいつも飲んでいるモスコミュールじゃない!って。
オレは文句つけたんだって!こういう話をしていたんだよ。」

「アララ!その男子も、ヤッチャッタ!わね!
これも、バーで禁句の一つって言ってイイわよね。

モスコミュールは食前や食後を問わないオールディだし。
多くの人が知る、メジャーなスタンダードカクテルよね。

アレンジやそのスタイルは、あの老舗のバーを含めて。
バーの数と同じくらいあるわよ、それを比べても、ね!

まぁバーに限らないけど、他のお店と比べて文句を言われたら!
どうぞ!そちらのお店にお行き下さい!って。

失礼な人!って私なら思うわよ。」

「そうなんだよ、それでその男性もたしなめられたの。
そういうことは、口にすべきことじゃないですよ!って。

そのバーテンダーさんに・・・。」

「フフフ・・・なるほど、さすがだわね・・・。

そうだ!次は何しようかな・・・。
今夜はもうカクテルじゃなく、何かモルトにして・・・。

いつもならロックか、水割りだけど・・・。
今日はあなたがススメテくれた、トワイスアップで楽しもうかしら・・・。」

・・・・こうして、銀座の夜は。

小雨の中、静かに時を重ねるバーと共に。
連れとオレの時間をさらに豊かに、そして心暖かく。

演出してくれるのであった・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・。

ここで最後に・・・・告白しよう。

実は・・・この日、オレが行ったバーは2軒とも。
初めて行った!つまり一見さん!だったのである。

にも関わらず、10代のころから。
バーカウンターの隅っこで、周囲の大人を見て。

そのころの愛読書が、カクテルのレシピ集だったり。
仲間からの誕生日プレゼントが、洋酒の大辞典だったり。

酒やバーに、それなりになじんできたオレは。

地元や出張先で、予約などせずに。
事前にリストアップしたか、紹介されたバーに行くこと。

これを趣味としていて、ある程度なれていると自負している。

そのため2軒目のバーでは、一見さんにも関わらず。
若い店長も勤めるバーテンダーさんからは、再訪のお客か。

自分の師匠筋のバーのお客と思われたが。
あたり前だが肯定もせず、といって誤解を解くわけでもなく。

ただ、静かにその場と酒を心ゆくまで楽しんでいた。

もちろん、いくら年齢がオレより若いとしても。
実は、ここのバーテンダーさんは女性であったが。

無論のこと、女性であっても。
オレは、言葉遣いやオーダーには気をつけている。

それは、若いバーテンダーさんを試すとか。
陰険で偉そうに、上から目線でいるのでなく。

オレの流儀として、バーでは余分なことを語らないこと。
オレも連れも楽しく飲めればイイ、これに徹しただけだ。

それにオレだけでなく、そのバーの常連でなくても。
バーに通いなれた人間は、時に通っている常連よりも。

おそらく、バーテンダーさんに一目置かれるだろう。

そう。次回はシガー、葉巻とバーの関係を酒の肴に。
みなさんにお話したいと思うが、このシガーも。

バーになれている人、という印象を持つ一つのアイテムだ。

ではでは。
また次の機会に、お会いしよう。

2015年10月7日水曜日

銀座のバーでヤッチマッタ!【事件編】

今月から、新しいシリーズを始めます。

ビジネス関係でなく、経営者やビジネスマンのプライベートタイムとか。
接待やデートなどに使えそうな話題づくりや話のネタをご提供します。

どちらかというと、男性や女性の心理や恋愛の話とか。
日が沈んでからの時間帯、そこで起きた出来事などが中心になります。

そういう意味では大人のコラム、というべきでしょうか。

また形式としては「越後屋の商い帳」と同様に小説です。

ただ時代小説風でなく、舞台は現代。
酒とシガーと女性を愛する男が主人公。

題して「2代目マイク・ハマーの事件簿」シリーズ。

本家・マイク・ハマーの小説がハードボイルドなら。
こちらは半熟?ソフトボイルドくらいだと思います。

書いているのは、経験したことなど事実に基づいていますが。
そこは小説、一部に脚色や演出ががあることはご了解下さい。

そのため、本作で想像される実在の人物や会社や店とは関係なく。
また極めて私的な見解もあるので、その点もお許し下さいますようお願いします。

そういう意味では、サササッ!と流し読み頂けると幸いです。

ではでは。

「2代目マイク・ハマーの事件簿」その第1話を始めさせて頂きます・・・。

■ ■ ■ □ ■ ■ ================================== ■ ■ ■ ■

東京・銀座。

あらゆる種類の人が、集まり、そして散っていく華やかな街。
近代的なビルのすぐウラ、路地裏と呼ぶにふさわしい一角に。

バー好きなら、知る人ぞ知るバー。
一度は行ってみたいと願う老舗のバーがある。

夜。9時を少し回った、小雨の降る日だった。

小さな看板がポツンと一つ、窓一つない壁についている。

その薄明かりのすぐ下には、やや大きめの木製ドア。

そのドアは。

開ける人を選ぶ、いやドアを開けるかどうかの勇気を試すかのように。
そのバーと共に時間を重ねてきた自信と誇りにあふれ、重厚感をたたえていた。

スゥー・・・・・・。

だが見た目以上に、ドアはスムーズに開いた。

そして、開けた者を暖かく迎え入れるように。
さまざま人の声が聞こえてきた。

いったい、いつ造られたのだろう?

ドアの先には、半世紀近く生きてきたオレより。
ずっと年季の入った木製の階段が地下へ続いていた。

今宵が楽しいく時となるか?
それとも、忘れたい思い出になるか?

少しの緊張感と大きな期待の中、食事で飲んだシャンパンとワインが。
オレの気持ちを膨らませると共に、足元に気をつけろ!とささやいていた。

地下に降りると。

そこには、大勢の男女と数名のバーテンダーさんが。
にこやかに集う、80年の歴史を超える空間が広がっていた。

「どうぞ、ちょうどカウンターが空いたところです・・・」

なんという幸運だろう。

この曜日、しかもこの時間帯では。
まず満席だろうと思っていたが、想像どおりの混み具合だった。

しかも、銀座のバーで事前に予約を入れておくほど。
オレはヤボじゃない、たとえ大切な連れがいてもしない。

もし混んでいて、入れないなら。
次のバーへ行くだけのことだ。

それほど銀座には、バーというものがいくつもある。

万が一、そのバーに入れないなら。
その日はツイてないだけのこと。

一人なら帰るかもしれないし、もしそれなりの連れがいれば。
あまりアレコレ考えず、歩くにも負担がない程度の距離。

近くの席数のある大きめのバーに行って、それなりに過ごすか。
空いている可能性がある、無名で未知のバーで冒険するか。

この程度で、終わってしまうのだが。
しかし、この日は違っていた・・・。

まずこのバーに来たかった。

それは、連れのリクエストでもあった。
そして。何よりオレ自身が、このバーに行きたい日だった。

そのため、もし入れなかったら。
大きめのバーや無名のバーでの冒険でなく。

次、次と。

その日は小雨でも、ビル風でズボンの膝まで濡れてしまうような日だったが。
びしょ濡れになっても、行きたいバーへはやる足取りで行っていただろう。

しかし。混んでいると思ったが、入れたこと。
しかもカウンターに座れる、それもトップのバーテンダーさんの前に。

銀座でも、いや全国でも名の知れた大ベテランの方。

その方の目の前、カウンターに座れるなんて!

入れただけでも幸運だが、その何倍もの幸運を感じながら。

オレは、オレ以上にバー慣れしている連れを。
それでも、静かにリードするように。

このバーで飲みたかった、モスコミュールを。
連れの分と合わせて2つ、オーダーした。

そして。その日、2杯目のオリジナルカクテルを。
連れとにこやかに、オレが思うバーの3大要素。

何より、バーテンダーさんの人柄。
カクテルや提供されるモルトの種類や質。
カウンターに代表される店の内装や構え。

「ここは、場全体になにか魅力を感じるわ」

という連れの言葉に表されるように。
その3つが融合された空間と共に楽しんでいた。

その時。事件は起きた・・・。

後から来た、20代~30代と思われる女性と。
たぶん50代~60代と思われる男性のカップルが。

ちょうど空いた、オレと連れから少し離れたカウンターに座った時のことだった・・・。

実は。

女性がバーに行って、もしカウンターに座ったら。
してしまうと、ヤッチマッタ!と思われることが3つある。

バーに慣れているというか、バーが好きな人なら。
おそらく誰でも知っていることだ。

それをさりげなくカバーするのが、連れの男の役目というか。
オレに言わせれば、ある意味では義務であり、男の技量なのだが。

そのヤッチマッタ!ということの一つを。
カウンターに座ってすぐに、その女性がしてしまった!

それは、彼女のオーダーの一言だった。

しかも、なんと!連れの男は。
となりの女性、その女性も男性と来店していたが。

そんな見知らぬ女性に話しかけていて、何の行動も示さなかった!

・・・そして見事に!オレの予想どおり。

大ベテランのバーテンダーさんは。
このカップルに聞こえないほどの小さな声で。

「ウチは、定食屋じゃないよ・・・」

とつぶやき、ヤッチマッタ!感を漂わせたのだった。

これだけでも、まさに絵に書いたような事件だったが。

その日は、まさにバーならではの事件がもう一つ。

今度はオレの右隣の席にいた男性、年は30代~40代だろうか。

すぐとなりのため、つい聞こえてきてしまう会話から。
この老舗のバーに通いつめている、なじみの客だと思われた。

そんな男性客は、先ほどのバーテンダーさんのささやきを耳にして時。
思わず苦笑をもらしていたのだが、今度は自ら発した次の一言。

「ここのバーで、ここで育ったようなオレだから
別のバーでモスコミュールを飲んだ時、XXXXっていったんですよ!」

この発言で・・・別のバーテンダーさんからたしなめられることになる。

そう。彼もまた、ヤッチマッタ!事件を引き起こしたのだ・・・。

この事件で、ヤッチマッタ!男性はバーに通っている割には。

いや、恐らくいろいろなバーに通いなれているのでなく。
ただ単に、このバーに通いつめた常連客では?と。

こんな思いをオレの中で引き起こした。

実のところ、バーは。
正確にいうと、バーテンダーさんは。

顔なじみの通いつめた常連客よりも。
身も知らない、一見の客だが「バー慣れしている!」と感じる客に。

一目を置いて、接客することがよくある。

もちろん、どっちの客が上とか下とか。
バー慣れしているから、偉い!とかいうことではない。

あまりバーがお好きでない、敷居が高いと思っている方に。
念のため伝えておくが、この夜のヤッチマッタ!カップルには。

決して不快な思いも、恥ずかしい思いもさせることもなく。
上手にサブのバーテンダーさんが、丁寧にフォローしていた。

また物知り顔で、このヤッチマッタ!女性に講釈をたれるつまらん客も。
このバーのカウンターにはいなかった、これも申しそえておこう。

そして、たしなめられた男性客もまた。
その心境はうかがい知れないが、その後の彼の会話や態度とか。

彼がこの老舗のバーに通い、他のバーにも行くほどの人物だからこそ。
不快な思いではなく、きっと学びの機会として良かったと思っているだろう。

このようにバーは、酔っ払いや訳知り顔の人、バーに慣れていない人に。
きわめて優しい存在であり、その雰囲気をバーに作り、演出するのも。

バーテンダーの役割であり、不可欠な技量だと言えるだろう。

そしてこの老舗バーも、やさしい空間をもったバーの一つであった。

・・・そんなバーで立て続けて起きた、バーならではの事件。

それを尻目に。

「さっ、行こうか!」

と2杯飲み干し、サッと席を立ったオレと連れ。

最初から2~3杯飲んで。
次のバーへハジコの予定でいたのだ。

そして次のバーのカウンターに座り、一杯目のカクテルをオーダーした時。
この2つの事件をオレは、このカップルと男性客には申し訳ないが。

連れと「酒の肴」にしていた・・・。

さて。ここで読者のみなさんには、この事件の真相を推理して欲しい。

はたして、カップルの女性は。
いったい、どんなオーダーをしたのか。

そして、男性客は。
モスコミュールについて、どんなコメントを他の店でしたのか。

その回答編は、次回に。

ではでは。また。