2015年9月30日水曜日

番頭さんの苦闘とは


前回。

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会社の継続、会社経営には。

困難がつきものであり、困難から生じる苦闘や苦悩がつきものであって。
2代目経営者として苦闘や苦悩がないのは、ただ単に困難に目をつぶって先送りしているか。

創業者や起業家と違って、2代目経営者の場合は。

社内の他の誰かが、先送りする2代目経営者の尻を叩いたり。
その人なりの立場や力で、2代目に代わって困難に立ち向かったり。

誰かに苦闘や苦悩を押し付けている状態も、決して少なくない気がします。

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とお話しましたが。

この「誰かに苦闘や苦悩を押し付けている」という典型的な実例をお話したいと思います・・・・。

「・・・2代目師匠さん、ウチの社長のことをどう思います?
正直に言って下さい、ウチの2代目の評判はどうでしょう?・・・」

先日、古い取引先のある方から。
会合の後のお酒の席、しかもだいぶ酔いも回った3次会となったスナックで。

席に着くなり、こんな質問を投げかけられました。

この方は、ある会社の古参幹部さん。
創業者である先代の右腕であった、いわゆる番頭さんです。

仮にAさん、としましょう。

Aさんとは10年以上前から、昼間の会合や商談でご一緒だったり。
会合後の懇親会やパーティーで、テーブルが一緒の時はありましたが。

2次会、3次会と少人数で流れる席は、今回が初めてでした。

一方で創業者のお父さまが、急な病気で倒れてから。
経営の実権を継いだAさんの会社の2代目社長さんは。

年下なので仮にB君としますが。
商工会の会合や異業種会などで、時おり少人数で飲みに行くことがありました。

B君とは、仲が良いわけでもなく。
もちろん、仲が悪いというわけでもないですが。

どちらかというと、一定の距離をとっているような関係でした。

というのも以前、B君に頼まれて紹介した2代目経営者の先輩から。

「2代目師匠君に紹介されたから会ったけど、彼(B君)はちょっと・・・」

というお話があって、しかも紹介したわりには結果の報告もなくて。
B君は・・・どちらというと不義理な人なんだ、という印象があったり。

B君の同世代の2代目経営者の人からは、異口同音に。
周囲と協調する、周りに気をつかうタイプでないという評判を耳にしたりして。

何となく、彼とは「大人のつきあい」をしていたのです。

加えて、飲み会や商工会などのお付き合い場だけでなく。
B君の商売に対する姿勢についても、あまり良くない話を聞いていましたが。

あくまでも、これらの話は「また聞き」で私自身が感じていることでなく。
ましてやお酒の席で、あーだ、こーだ、と言うのも気が挽けて。

Aさんの真意もわからない中、お茶を濁すように。

「大丈夫じゃないですか?経営者として立派にやっていると思いますよ」

と応えたところ、Aさんは。

「いえ、外での評判は良くないことばかり耳にしています・・・
というの外部の方から、いろいろと言われているのです・・・

他の人の評判を落とすような話をしたとか、
ウラでヘンなことをお客に吹き込んだとか・・・

お客さんとの接待の場や主催した場なのに、
いつの間にか断りもなくいなくなるとか・・・

それでウチの2代目に社内で確かめると、
やはりそういうことをしているんです・・・

別に商売ですから、
何かしらの文句や批評はあって当然かもしれませんが・・・

騒いでかき回すだけで、契約にならない、
またお客さんの気分を悪くしただけで・・・

その後始末を私がしているんです・・・

何かと飲み会だ、ゴルフだと・・・
実績がない、仕事になっていないのに・・・

交際費をつかって、何をしているんだか・・・
先代が倒れた時も飲み歩いていて・・・

倒れたのに、プライベートな旅行に行くと言い出して・・・
正直、ウチの若い社員からも、批判が出ているんですよ・・・

・・・・弱ったものでして・・・・・・・・・・・」

と言って、最後にポツリ。

「もう、今の会社は辞めようかとも思っているんですよ・・・」

とAさんは、悲しそうに話していました。

あとで聞けば、Aさんが辞めたら。
あの会社はもたない、と同業者の方たちは口にしているそうです。

経営トップであるB君が、社長として幹部のAさんをサポートするどころか。
Aさんを苦悩や苦闘の淵に立たせている、辞めたいと思うまでにしている・・・。

たしかに、古参の番頭さんと2代目がぶつかって。
番頭さんが辞める、2代目が辞めさせるという話はよくあります。

ただ、それは経営方針や価値観の違いで生まれるものもあれば。
Aさんのように、2代目の尻拭いにイヤ気が差すようなこともあります。

経営方針や価値観の相違が引き金の場合は。

たとえば、このまま番頭さんを放置しておくと若手や会社のためにならないと。
社内での支持を得ながら、2代目が番頭さんを辞めさせることもあるでしょう。

また2代目と番頭さんが、お互いに会社に良かれと思ってした行動の結果として。
時代認識や市場に対する感覚のズレなどで、番頭さんが自ら辞めることもあると思います。

それに比べて、Aさんのように2代目のお守りや尻拭いに疲れて辞めるとか。
たとえば単に気に入らない、口うるさいからと短絡的に辞めさせてしまうとかでは。

その後の会社の状況は、行って帰ってくるほどの違いがあるものです。

その上でどちらにしても、2代目経営者は古参の番頭さんの処遇について。
誰か信頼のできる第三者の方に、相談しながら決めた方がより良いと思います。

ずっと前の話ですが、別の2代目経営者のC君から。
先代が同業他社からスカウトしてきた、番頭さんのことで。

先代が急逝して、業界にも社内にも慣れないC君が社長となってから。
事あるごとに彼の意向を無視して、勝手なことを社の内外でしている。

どのように対処や処遇したら良いか?と相談を受けたことがあります。

その時に、C君にまず話したのは「コンパス(方位磁石)」のことです。

やり方、たとえば山に登るとして。
ヘリコプターで行くのか、登山道を行くのか、けもの道を行くのかなど。

いろいろな登り方、考え方、ビジネスの方法や進め方に違いがあっても。

大きな観点で「北へ向かう」という方角があっていれば。
私心がなく、会社や社員やお客さんのためなどの意識があるならば。

C君と番頭さんでコンパスの指す方位が一緒なら、もう少し様子を見た方が良い。
もしそうでなければ辞めさせてもイイ、いや辞めさせるべきと思う、と話したのです。

結果、C君は私心で番頭さんが会社の実権を握ろうと画策していたこと。
さらに外部の取引先にも、彼の批判をバラまいて巻き込もうとしていたことなどが判明して。

C君は、番頭さんを辞めさせました。

その後、この番頭さんは別の同業者に移って。
何かとC君の批判を続け、古巣である彼の会社の評判を落とそうとしました。

ハッキリ申し上げて。

以前であっても、現在進行形であっても。
立場が番頭や幹部社員であっても、一般社員であっても。

勤めていた会社、勤めている会社の批判を声高に話して。
評判を落とすような行為をするヤカラに、優秀な人はいません。

C君のところの元・番頭さんは、転職先も追われるように辞めた後に。
県外の同業者の支援を受けるような形で、会社を起こして巻き返しを図りましたが。

何の実績も業績も残さないまま、いつしか消えて行きました。

このように番頭さんは、番頭さんであるゆえに経営者の苦闘とは違って。
辞めることもできれば、とんでもない経営者から理不尽にもクビにされることもあります。

その中でも、本来なら軽減されるべき苦闘を背負わさせているAさん。
反対に本来なら番頭としての背負うべき苦闘を放棄したC君の元・番頭さん。

2人は、同じ番頭さんという立場でも。

AさんとC君の元・番頭さんの苦闘や苦悩や悩みは。
その方向や周囲からの評価が、大きく違って見えます。

あなたの会社には、古参の番頭さんがいますか?
その番頭さんは、Aさんのタイプ?それともC君の元・番頭さんのタイプでしょうか?

もしAさんのように、辞めるという選択肢を持たずに。
2代目経営者の苦闘を親身になり、分かち合ってくれる番頭さんならば。

世代的な価値観の違いや新旧のやり方の相違があっても。
それは2代目の苦闘を自ら背負って苦闘してくれる番頭さんとして。

しっかりと引き留めておくべきではないでしょうか。

ではでは。また。

2015年9月3日木曜日

経営者の苦闘とは

かなり以前、経営に思い悩んでいる時。
すごく考えさせられた記憶があるのですが。

『企業の継続年数というのは、
その企業がどれだけ困難に「耐えたか」の指標であり、
また経営者が精神的困難をどれだけ乗り越えたかの指標でもあります』

先日、このような言葉を。

起業家に投資するベンチャーキャピタルの方が書いた本から目にしました。

たしかに、会社を継続するというのは数値的に見ても困難です。

統計や計算したもの、諸説いろいろある中で。
企業生存率を一番高めに出している数値でも。

創業後10年続く会社は、100社中70~80社くらいと言われて。
それが、長年にわたり2代目、3代目・・・と存続していくとしたら。

創業者から2代目に継ぐ時期になるであろう、創業後20~30年では。
100社中50社前後となり、それが3代目に継ぐ段階の創業後50年となると。

100社中16社ほどになっています。

さらに3代目が経営を全うするあろう、創業後100年ともなれば。

わずか1000社に1~3社程度だと言われています。

もちろん今、2横ブログをお読みの創業者や2代目や3代目以上の経営者の方なら。
こんな数字を目にするまでもなく、経営をする困難、企業を継続する困難をハダで感じて。

それに伴う「経営者の精神的困難」は、骨身にしみているはず。

経営には困難がつきものであり、困難なことでもあり。
企業の継続年数は、まさにそれに耐えた証(あかし)であって。

企業が困難に耐えるとは、経営者が精神的困難を乗り越えたことに他ならない・・・。

経営者の末席にいる私としても、このように。
日々の経営活動で感じ、骨の髄までしみ込んで思うのです。

その上で、企業をゼロから立ち上げた創業者や起業家はもとより。
2代目や3代目といった、企業の継続年数を重ねる役目の経営者も。

創業者や起業家、また世間から見れば、甘いのかもしれませんが。
それでもその姿は、まさに苦闘、苦しみ、戦うことの連続のようにも思えます。

そんなシビアな創業者や起業家の苦闘について、冒頭の言葉と共に。

・苦闘とは、そもそもなぜ会社を始めたのだろうと思うこと

・苦闘とは、あなたはなぜ辞めないのかと聞かれ、その答えを自分もわからないこと

・苦闘とは、自分自身がCEOであるべきだと思えないこと

・苦闘とは、自分の能力を超えた状況だとわかっていながら、代わりが誰もいないこと

・苦闘とは、全員があなたをろくでなしだと思っているのに、誰もあなたをクビにしないこと

・苦闘とは、失敗ではないが、失敗を起こさせる、
               特にあなたが弱っているときにはそうだ、弱っているときは必ず

と語っていたのが、次の「ハード シングス」という本です。



もしこの創業者や起業家向けの「苦闘とは」の言葉を。
2代目経営者に、置き換えるとすれば。

・苦闘とは、そもそもなぜ会社を継いだのだろうと思うこと

・苦闘とは、あなたはなぜ2代目社長をしているのかと聞かれ、
その答えを自分もわからないこと

・苦闘とは、自分自身が2代目社長であるべきだと思えないこと

・苦闘とは、自分の能力を超えた状況だとわかっていながら、
先代の跡を継いだり、代わったりりする人が誰もいないこと

・苦闘とは、周りがあなたをボンボンやオジョウちゃんと思っているのに、
誰もあなたをクビにしようとしないこと

・苦闘とは、失敗ではないが、失敗を起こさせる、
特にあなたが弱っているときにはそうだ、弱っているときは必ず・・・。

となるのではないでしょうか?

その一方で、世の中には。
経営者としての苦闘とは無縁に、先代の財産や資産を回すだけで。

2代目社長です!と胸を張り、いつしか先代の遺産がなくなることに気づかずに。
そのままズルズルとジリ貧になっていく、そんな2代目がいるのも現実です。

そういう2代目は、得てして。

周りの人に、大きく見せようとか、強く見せようか。
えらく見せようとか、力や金があるところを見せようとか。

こんな立ち居振る舞いをしているわけで、特に男性の2代目経営者に。
こういう人が少なからずいて、その多くが自滅に至っている気がします。

一方で、反対に卑下するような態度の2代目も。
やはり男性の2代目経営者の中に、少なからずいますが。

内実はバカにされたくないだけ、本質は変わらないとも感じます。

もちろん、苦闘、苦悩すれば一人前!という話をしたいわけではありません。

また私自身を含め、誰もが苦闘や苦悩なしに生きられたなら。
苦闘や苦悩なしに、会社を継続できて次の代へバトンタッチできたなら。

こんなにイイことは、ないとも言えるでしょう。

しかし、冒頭の言葉とおり。
会社の継続、会社経営には。

困難がつきものであり、困難から生じる苦闘や苦悩がつきものであって。
2代目経営者として苦闘や苦悩がないのは、ただ単に困難に目をつぶって先送りしているか。

創業者や起業家と違って、2代目経営者の場合は。

社内の他の誰かが、先送りする2代目経営者の尻を叩いたり。
その人なりの立場や力で、2代目に代わって困難に立ち向かったり。

誰かに苦闘や苦悩を押し付けている状態も、決して少なくない気がします。

最後に。

この本で語られていた「つらいときに役に立つかもしれない知識」をご紹介します。

・ひとりで背負い込んではいけない
・単純なゲームではない(苦闘は戦略が必要なチェスだ)
・長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない
・被害者意識を持つな
・良い手がないときに最善の手を打つ

この言葉のように、つらい時には。

世の中からは、創業者や起業家から見れば。
苦労や苦闘も苦悩もしていない、楽な立場と言われて。

実際に、楽ばかり追い求めているヤカラも。
2代目経営者にいることも、実感していますが。

日本のどこかで、額に汗して、ワキに冷や汗をかいて。
今日も東奔西走、マジメに経営に取り組む2代目のために。

苦闘する姿や苦悩する心を少しでも分け合うことができる場になれば・・・と願って。

2代目横丁は、存在しているのです。

ではでは。また。