2015年8月6日木曜日

他の人をモノとして扱えば・・・

さてさて、前回の話の続きでございます。

昨年、先代で創業者の父を亡くした備前屋の2代目の若だんな。
ご城下の商い仲間で、中堅どころの越後屋に「ちょっと相談が・・・」と。

神妙な面持ちで、もちかけまして。
2人は人目につかない場所で会ったのですが。

てっきり、商いの相談だと思っていた越後屋の想像とは違って。
備前屋の若だんなからの相談は「女性のこと」でありました・・・。

それが、今から10日ほど前の出来事です。
その時をふり返りながら、越後屋と女将の会話は進みます。

○   ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○

「・・・それでね、備前屋さんは雑談の後、こう切り出したんだ・・・」

越後屋は、女将が注いでくれた酒をクッ!と飲み干すと。

「越後屋さん、本日ご相談があったのは、ほかでもございません・・・
実はある料理屋に奉公しています女中と・・・ひょんなことから・・・・

男女の仲になりまして、お恥ずかしいお話、その関係を続けたい、と・・・
このように話しましたところ、それならお手当てが欲しいと言われて・・・」

やや芝居がかった口調で、あの日の備前屋との話を語りだしました。

「自分には、弟がいて面倒も見なけりゃいけない、だからお金がいると・・・
・・・そこで備前屋の若だんなは、こういう時には、普通にお金は出すもので
越後屋さんも、そうしていますか?と・・・・こう、私に尋ねるんだ・・・・・・」

すると女将は、口元に微笑を浮かべながら。

「そないな話・・・あんさんも、されたことあるんどすか?・・・
ほんでお相手に、お金を渡したりしはったんどすか?・・・」

と言いながら、越後屋の手のひらの上に自分の人差し指を重ねて。
やさしくそっと、ゆっくり回すようになぞって来ました。

「と、とんでもないよ!私には、そんな経験はないさ!
でもね、世間ではよく耳にする話、だとは思うんだよ

かわら版に書かれたり、どこの誰とは言えないけれど
実際にお金を渡したというお人もいたりするからねぇ~」

やや慌てて、こう応える越後屋を見て。
クスっと笑う女将に、やられた!からかっただけか!と思いながら。

「少なくとも、私には経験がないけれど、お金のやりとりをする人もいるわけで・・・
で、備前屋さん、あんたはお金を渡してあげたの?と彼に尋ね返したんだよ・・・・・・

すると、いや、渡していない、でも渡した方が良いのか?
それとも断るべきなのか?・・・越後屋さんならどうしますか?ときいてくるんだ・・・」

こう越後屋は、話を続けるのでした。

「そんなん、よう答えられへん話どすな、難儀なお話・・・」

こういいながら、女将は越後屋の空いた杯にお酒を注いで。
越後屋もまた、ご返杯とばかりに、女将の杯にお酒を注ぎながら。

「そうなんだよ、厄介な話さ、どっちでも備前屋さんが自分で決めればイイ
そこで、若だんなは渡したくないの?それとも渡したいと思っているの?って・・・

そしたら、今まで自分はお金を渡したことはない、渡すには違和感がある・・・
それでも一般的にどうなのか?越後屋さんなら経験あるだろうし・・・・それに・・・・・・・」

とここまで言いかけて、言葉を飲み込む越後屋に。

「それに・・・なんどすか?・・・」

中途半端な言い方に、女将は少し首をかしげながら尋ねます。

「・・・いや、なに・・・・それに、越後屋さんは女将にいくら出してるんですか?と・・・
オマエにお金を出して、この店をやらせているんでしょう?と言うんだよ・・・・」

すると女将は、ヤレヤレまたかと。

「・・・フ~・・・そのお話どすか・・・男衆は、すぐしょうもないこと、言わはりますな~
あんさんをいれて、6人くらいのお人に、うっとこはお金を出してもらったって・・・・

こないな話になってます・・・もう、すかたんもエエところ・・・アホらしくて反論する気かて
何回も言われるうちに、なくなってます・・・うちは自分のお金でお店出したんどすけど・・・」

つまらん男どものウワサに、あきれるのでした。

そして、越後屋も越後屋で。

「そうだろう?私のことはどうでもイイとして、オマエに無礼でぶしつけな話さ・・・
というか、備前屋の若だんなの若さというか、人としての厚みがまだないというか・・・

それで、静かに、まず金など出していませんよ、それに、男と女の間にお金をはさむのは
ヤボなこと、ヤボ天のすることです、私はヤボなことをしたことないし、する気もありません

ただ備前屋さん、お金をはさみたがる女性もいる、別に悪気があるわけじゃない・・・・
聞けば弟さんがいる、お金がいるっていう話、それはそれで、まず認めてあげだ上で

それでもお金を出したければ出せばイイ、出したくなければ断ればイイ、自分で決めること
イイも悪いもない、自分がしたいか?したくないか?であって、一般論は関係ないと思う・・・

こう話してやったら、確かにそうですね、と若だんなも話がわかってくれたようで・・・・
ちょっと自分なりに考えてみます、という結論になったんだけど・・・・・・」

と半ば、あきれながら事の次第を話した上で。

「男と女の仲をお金を尺度にして見るようになると、商いもイイことがない気がしてね
本来なら、お金は出さない方が・・・と備前屋の若だんなに言うべきでは?とも感じたんだよ・・・

たとえば商い仲間のある大店(おおだな)の2代目は、その昔にタチの悪い女にひっかかって
お店までお金を取り立てに来られて、ウワサも広まって、このお城下にいられなくなったり・・・

あるお店の2代目は、水茶屋の女に手を出して、その女とどんな約束をしたかしらないが・・・
ある朝、お店の木戸に事の顛末を張り出されたり、看板に女の肌着か巻き付けられたり・・・

店の丁稚から小僧に至るまで、2代目のことをカゲであきれて、愛想をつかしていて・・・
とうとう先代から仕えていた大番頭さんが、別のお店に移ってしまって、店が傾いて・・・」

このように、女性関係で大きな失敗になった2代目について語るのでした・・・。

「そういえば昔、お店を継いで間もない頃、商い上手で、気もよく回って
先代の時の10倍にお店を広げた徳島屋さん、というお店の今の2代目は

女性関係も盛んで、私が見たり、耳にしたりしだけでも片手じゃ足りないくらい
いろいろなタイプの女性、チョー美人から、どうして?と首を傾けたくなる女性まで

あちこちで浮名を流して、それでもトラブルが一つもなくて、スゴイお人だけど
その方が言うには、お金の話を含めて、女性をモノのように扱うとダメだ、って

でも2代目には、勘違い野郎が少なくなくて、飲みに行ったも、遊びに行っても
モノのように扱うヤカラがいて、得てしてそういう2代目の店は早晩、傾くことになる

こんな話をしていたけど、確かにそのとおりだと思うな・・・・・もっとも、2代目に限らず
他の人、特に女性をモノとして扱ような男は、商いも仕事も大成しないな、そう思うよ」

何やら、遠くを見つめながら。
かみしめるような話し方をする越後屋に。

「男はんだけとは限りまへんえ、女も男をモノのように扱えば・・・えげつないお人は・・・
男も女もあきまへん・・・さぁ、そんなしんきくさい話は止めて、今晩はゆっくり・・・・・・」

やさしく手を取り、しだれかかる女将。
どうやら越後屋と女将の間は、ヤボではないようで・・・。

というわけで。

越後屋の商い帳シリーズ、女性関係のお話。
ここいらあたりで、お開きとさせていただきます。

ではでは。次のお話でお会いできます日まで。
お後がよろしいようで、しばらくのお別れでございます・・・・。

0 件のコメント:

コメントを投稿